- ユートピア症候群とは?
- 3つのステージ別症状とアラート
- 企業・従業員間で起きてしまいがちなギャップ(原因を知る)
- 発症しやすい従業員の特徴(対象を知る)
- ユートピア症候群への企業としての対策(対策を知る)
- まとめ
現代社会の多くの企業において、人的資源の流動性が高まっています。
「人的資源の流動性が高まる」という事自体は、企業にポジティブな側面をもたらすこともありますが、反面、マイナスの方向性へと作用してしまう事もあります。
望まない人材の流出を防ぐためにも、企業側は従業員のSOSに素早く気づく必要があると言えます。
今回は、若手が陥りがちな『ユートピア症候群』というメンタル不調に関して解説していきます。
ユートピア症候群とは?
ユートピア症候群とは、職場環境において従業員が思い描いていた「自分がありたい姿」と「実際の仕事内容」とのギャップにより生じてしまうメンタル不調のことを指します。
この症状は、新しい職場環境や人とかかわる際に過度な期待や理想を抱いてしまうことが原因となります。
「自分の本当にやりたい事はこの業務じゃない」「自分にはもっといい環境が向いているはずだ」
こういった、期待から悲観へのギャップがメンタル不調を引き起こす原因となるのです。
3つのステージ別症状とアラート
ユートピア症候群には各ステージがあり、それらを分類すると大きく3種類になります。
どのステージでも、このメンタル不調をきたしている時点で、管理者はそのアラートに素早く気づいてあげる必要があると言えます。
ステージⅠ:生じたギャップを承認欲求で満たすために、やりがいや誇りを求めて転職を検討します。
具体的アラートとしては、「自分はこういう仕事がやりたい」「自分はこういう仕事につけばもっと結果を出せる」といったような発言を周りにするようになります。
ステージⅡ:組織へのネガティブで後ろめたい気持ちを補うために、環境や上司、組織への批判を行います。
ここでのアラートは非常に気付きにくく、共感してくれる/心を許したメンバーにだけこのような批判を吐露します。
また、他責的な思考に陥りがちになってきてしまうというアラートもあります。
ステージⅢ:現実逃避を目に見える形で行い始めます。「自分が良ければ良い」という組織の一員としての自覚が薄れてしまい、第三者目線でも変化が見て取れるような状態です。
アラートとしては目標の未達成や周囲との報連相が減少しているといった例が挙げられます。
企業・従業員間で起きてしまいがちなギャップ(原因を知る)
企業と従業員の間には、多くのギャップが存在します。これは、経営層のビジョンと、現場の従業員の期待や認識が一致しないことが理由です。
本セクションでは、ユートピア症候群を引き起こす原因となるギャップについて3つ紹介します。
目的の不一致 :経営者は企業の成長や利益を優先して追求する一方で、従業員は職場環境や福利厚生といった日常的な問題に重きを置くことが多いことから生じるギャップです。
認識の不一致 :新しい職場やプロジェクト、役職に対する期待と、実際に行っている業務内容や報酬から生じるギャップです。
価値観の不一致:上司や部署間のコミュニケーションの不足による誤解や不明確な指示や要求といった権限委譲が引き起こす価値観のズレが生んでしまうギャップです。
他にも企業・従業員間で起こるギャップはありますが、特に注意が必要なものが上記の3つになります。
今一度自分の組織であてはまるものがないか、振り返ってみましょう。
発症しやすい従業員の特徴(対象を知る)
ユートピア症候群は誰もが発症しうるメンタル不調ですが、特に気を付けておきたい方の特徴を本セクションで紹介します。
会社に高い期待を抱いている:新しいプロジェクトや環境に対して過度な期待を抱く従業員は、注意が必要です。こういった方は、期待と現実が合致しない可能性が高いだけでなく、些細な失敗で失望してしまいやすいという完璧主義的な性格特性を持っています。
入社して日が浅い:新しい職場環境を迎える方も注意が必要です。特に新卒社員はこれまで社会人としての経験が少なく、彼ら自身の理想を現実との比較対象として引き出してしまう傾向があります。新入社員の早期離職が多い原因のひとつがこのユートピア症候群であるとも言えるでしょう。
過去の成功に固執している:過去の成功体験に固執してしまいがちな方は適応能力が低く、前セクションで挙げたような何かしらの不一致が生じると、フラストレーションをためてしまう傾向があります。
対人能力が低い:自分の感情や思いを適切に伝えられない従業員は、組織との誤解(ギャップ)や対人関係のトラブルを引き起こしやすい傾向があります。こちらも注意が必要です。
ユートピア症候群への企業としての対策(対策を知る)
では、ここまで取り上げてきたユートピア症候群に企業として何か取り組める対策はないのでしょうか。
このセクションでは、「ユートピア症候群を発症させない」という視点から、いくつかの予防策を紹介していきたいと思います。
ビジョン共有のための面談:メンバーを新たなコミュニティやプロジェクトに配属する際、チームの目標管理のためにまず面談を行いましょう。
企業側としてのビジョンだけでなく、リアルな数値や戦略、その事業で成し遂げたい事を包み隠さず議論します。こういった面談の機会は、定期的に開催し継続していくことが効果的だと言えるでしょう。
コミュニケーションの強化:上記の面談にもつながりますが、簡単なフィードバックの機会を設けたり部署間での交流を増やすことで会社全体が異変に気づける仕組みをつくります。
また、コミュニケーションを日常的に取るという事が難しい場合は、従業員サーベイのような「従業員の意見を吸い上げるような仕組み」を導入することでも効果が期待できます。
職場環境の改善:従業員のスキルアップやメンタルヘルスケアなど、従業員の意見を取り入れたサポート体制を築きましょう。福利厚生や賃金をこれまで以上に充実させることが難しい場合は、従業員の声に耳を傾ける姿勢を示すだけでも小さな取り組みの一つになります。
まとめ
企業に属するメンバーは、経営者なら現場側の、現場側なら経営者側の視点を持つことが重要です。
しかし、冒頭でも述べたように、人的資源の流動性が高まっている現代において、「従業員は無理してまで今の会社に居続けたい」と思ってくれるでしょうか?
ユートピア症候群を発症させないという考え方はもちろんのこと、経営者陣が
「従業員に興味を持ち、従業員の声に耳を傾け、従業員側へと歩み寄る」
といったような経営が、組織で生じるネガティブなギャップを埋めるきっかけとなるでしょう。